堀江敏幸『いつか王子駅で』☆☆☆☆

 炭火のような温かさ。現代の、自分より2歳上なだけの方が書いたとはとても思えないシブさ。ぶっちゃけ、じじくさい(笑)。というより、現代に舞い降りた夏目漱石か太宰治か?もはや存在しなくなった、「文士」という言葉がぴったり。明治や大正の香りすら漂う。

 もうとにかく文章の上質なこと。最初のページに、なんと「。」が一個もないのだ。10行もあるというのに、とても流暢。日本語の美しさに、読んでるこちらも思わず背筋が伸びる。

 話じたいはなんてこともなく、王子駅近辺に住む、やっぱり文士みたいな生活を送る中年男性の日常を淡々と描いたもの。近所の人々とだんだん知り合いになり、その触れ合いを「正吉さん」を中心につづっていく。途中、読んだ本の話などもからむので、ますます文士っぽい。

 エンタメではなく、どちらかというと純文学。何事もなく始まり、何事もなく終わる。波乱万丈ではなく、終始凪いだ湖面のよう。「で、正吉さんはどうなったの?」とか言うのは野暮というもの。

 ☆4つ。『雪沼~』ほどじゃないけど、かなり好きです。いつか王子駅で