辻村美月『スロウハイツの神様』☆☆☆☆1/2

 ああもう辻村さん!!やってくれたよ!!あまりに心ゆさぶられて、もう言葉にならない。これは、愛と奇蹟の物語。

 辻村美月による、現代トキワ荘物語。若手クリエイターの卵たちが集まる「スロウハイツ」。ここで手塚治虫にあたる神様のような天才小説家「チヨダ・コーキ」を頂点に、この館の持ち主である気丈な新進女性脚本家の環、ほか数人の男女が共同生活をしている。そこにある日、ひとりの女性がやってくる…。

 前半なかなか事件がおきなくてまだるっこしいなあと思っていたら、後半で見事ひっくり返された。あれが全部布石だったなんて!!いや、実際のところ、うっすらと予測はつくのだ。でもまさかここまで周到に練られていたとは…。普通の青春群像だと思ってたらそんな仕掛けが!

 若い住人たちそれぞれの仕事への情熱、恋愛、過去の傷。いい意味で大人になれない、青臭い登場人物たちが、無防備に不器用に全力で魂をぶつけあい傷つけあい、いたわりあっているのが、切なく痛々しい。そして幸せは長くとどまらない。ずっとこのままで、と誰もが願いつつも、時計の針はすすみ、やがて皆離れていく。そこがまたやるせなくて切なくて…。

 正直、決してうまい小説ではないと思う。万人向けでもないと思う。でもこの物語には、まだ磨ききれていない原石のダイヤのような輝きがある。それを感知できる人は少ないかもしれないけれど、わかる人にはドツボにハマる、そんな話。あと、彼女は物語の力というのを信じていて、強く静かに主張している。そこもまた「うんうん、わかるよ」と力強くうなずいてしまう。

 ミステリと思って読まないほうがいいかも。読み終わってみてはじめて、ミステリだったのか、と思うかもしれない。読後感は『凍りのくじら』と似ている。私はあれの倍くらい感動したが。☆4つ半。スロウハイツの神様(上)スロウハイツの神様(下)